お浚い会(生徒の皆さんの演奏会)について
当三味線教室では、皆さんの演奏技術の向上と、会員の方々同士の交流を目的として、年に2回の演奏会(お浚い会)を設けております。夏に浴衣着で行うものを「浴衣浚い」、年明けに和装で行うものを「お弾き初め」と呼んでいます。
今年は、来月の2月28日(日)を予定しておりますが、「お弾き初め」と呼ぶには、もう春先になってしまいますね。
さて、お稽古事で楽器を始めると、このような発表会というのがつきものです。特に子供の頃ピアノを習っていた方は、いろいろな思い出が残っているのではないでしょうか。
しかし、けっして単なる意地悪や、慣習的に皆様の発表会をしているわけではなく、熱心に出演をお誘いしているには、きちんとした理由があります。
1.演奏技術向上への短期的な目標として
「千里の道も一歩から」とは言いますが、なかなか三味線上達の最終ゴールというのは、遥かかなたで見えてこないものです。
お仕事の場で、中~長期的なスケジュールや計画を立てる場合に、「マイルストーン(一里塚)」と呼ばれるものを設定することがあります。つまり、短期的な(目に見える地点)に目標や指針を設定して、到達度や達成度の認識を容易にするわけです。
「三味線を名人級に上手くなって、カッコよく弾き歌いするぞ!」
という最終目標を立てても、それはなかなか見えてきません。
そこでまずは、
「『お浚い会』までに1曲をミス無く弾けるように仕上げる」
という手近なところに目標を設定することで、より努力しやすくなります。
2.生徒さん自身に、上達の度合いを実感してもらう
楽器を習得するというのは、それこそ「らせん階段を登っていくようなもの」です。日々の練習やレッスンで上達していく度合いはわずかで、なかなか自分では実感できません。(ちなみに、対面レッスンしている我々には、上達ぶりがよく伝わってきます)
そこで、日頃のレッスンの形態を離れて、演奏会の形式で1曲を通して演奏することで、
「ああ、私もここまで登ってきたな」
という、らせん階段で登ってきた「高さ」を実感していただきたいのです。それが、また次の目標へのステップとなります。
3.長唄一曲への理解が深まり、記憶に残る
通常、半年や一年という期間で長唄一曲を仕上げて、そのタイミングで演奏会で発表、ということが多く行われます。
もちろん、レッスンでその一曲を「あげて(修了として)」しまうことは簡単です。我々としても、歌詞の解説や、作曲の意図など、時間の許す限り、その一曲に関する情報はご説明しています。
ただ、最後はやはり、ご自身でその曲にじっくり向き合い、その曲の魅力を噛み締めていただく時間が必要かと思います。
長唄の一曲一曲が、江戸時代から二・三百年に渡って、師から弟子へと大切に伝えられた名曲です。我々もまた、その曲を師から習い、度重ねて舞台にかけたりして理解を深めてきた財産です。
「『お浚い会』で恥をかきたくない・・・」理由はどうあれ、その長唄一曲へ向き合う時間が増え、本番を通じてその曲への思い入れが深まっていただければ幸いです。
4.その他、お浚い会を通じて
他の生徒さんの演奏を通じて、これから習得していくロードマップを描くことができるでしょう。また、いろいろな長唄を一度にたくさん聴くことができます。
新しい生徒さんや、曜日や時間帯、会場が異なるなどの理由で、あまり普段顔の合わせることのない生徒さんと、交流を深める絶好の機会です。
友人やご家族、ご親戚を招待して、自分の趣味を理解してもらうのもいいかと思います。ふと、そんなきっかけで、旧家から使っていない三味線や着物が出てくることもあります。
だいぶ長くなってしまいましたが、「お浚い会」を「面倒なもの」と考えず、どうぞ前向きに活用していただければ幸いです。